独立行政法人 労働者健康安全機構 石川産業保健総合支援センター ishikawa

「小規模事業所における
産業保健活動を
有効支援するための
方策に関する研究」

調査研究統括 石川産業保健推進センター所長 河野 俊一
調査研究の分析他 石川産業保健推進センター相談員 城戸 照彦
金沢医科大学公衆衛生学教授 中川 秀昭
金沢医科大学公衆衛生学講師 森河 裕子
調査研究期間 平成11年8月~平成12年3月

はじめに

 近年、小規模事業所の産業保健活動の活性化が求められ、その対策を担う組織として地域産業保健センターが平成9年度末までに全国に設置された。また、50人未満の従業員を使用する複数の事業所が産業医を共同で選任した場合に国から助成金が支給される小規模事業場産業保健活動支援促進助成金制度も平成9年度より全国的に実施されている。石川県下においては、産業保健調査研究として平成10年度に50人以上の事業所の産業保健活動についてその実態調査を実施した。同じように、50人未満の小規模事業所に対しても、産業保健活動の地域や業種による特性を明らかにし、実情に即した今後の具体的対策を立てる必要性がある。そこで本研究の目的は、県下の小規模事業所の産業保健活動についてその現状を把握し、さらに今後の方策を地域産業保健センターの役割を含めて検討することとする。

対象と方法

 石川県下の従業員数50人未満の事業所は3万余りあるといわれている。今回は、その中から15人以上の労働保険適用事業所2,275カ所すべてを 対象として、産業保健活動に関して質問紙票を平成11年11月に郵送した。

結果

I.概要

 回答のあった事業所数は955事業所、回収率42%である。このうち従業員数14人以下の135事業所と50人以上の51事業所、従業員数未記載の2事業所を除いた767事業所(回答事業所の80.3%)について解析した。

 事業所を所在地別にまとめると、金沢市内が全体の47%を占め、以下小松市10%、松任市6%の順であった。

 石川県下の5労働基準監督署別に比較すると、金沢が全体の65%を占め、以下小松14%、七尾13%の順であった。

 業種別に比較すると、製造業26%、建設24%、サービス業23%、卸売・小売・飲食店16%の順であった。

 以下、従業員数別、労働基準監督署別、業種別に解析結果を示す。

II.従業員数別の比較

 事業所を従業員数15~29人と30~49人の2群に分けて比較した。従業員数15~29人の事業所は465カ所で全体で61.6%であり、従業員数30~49人の事業所は290カ所で全体の38.4%である。男女別比較では両群とも男性66%、女性34%と同様な傾向を示した。全従業員数に占めるパート労働者の割合は、全体で10%であり、従業員数30人未満の事業所で11%と若干高めであった。従業員の年齢構成を見ると50才以上の労働者が全体で30%を占め、2群間に差は認められなかった。

 一般健康診断の実施率は全体で94%であり、従業員数30人以上の事業所の方が96%と30人未満の事業所より4%高かった。さらに、従業員の半数以上が一般健診を受診している事業所は全体で90%であり、30人以上の事業所の方が94%と30人未満の事業所より6%高かった。

 有効回答事業所全体に対する有害業務や特定業務の比率は、全体では深夜業の11%が最も多く、続いて重量物取扱い作業の10%、有機溶剤の7%の順であった。従業員数別の比較では、重量物取扱い作業以外は総じて従業員数30~49人の群で高値を示した。
 有害業務・特定業務の内訳では全体で深夜業30%、重量物取扱い作業27%、有機溶剤取扱い作業18%の順に割合が高かった。但し、従業員数15~29人の群では重量物取扱い作業が32%と最も高値を示した。4項目に限定して特殊健康診断の実施割合を見ると、全体で有機溶剤が過半数を占め、続いて粉塵が35%を占めた。個別にみると、有機溶剤は30人以上の事業所では100%の実施率であった。粉塵については、全体では76%であり、30人以上の事業所の方が20%程高い実施率を示した。鉛や特定化学物質については、回答事業所は少なかったが、その範囲においては概ね高い実施率を示した。保護具の使用状況は、粉塵職場における防じんマスクについては、全体で96%の着用率であり、事業所規模による差はみられなかった。有機溶剤職場における防毒マスクについては、全体で85%の着用率であり、30人以上の事業所の方が10%程高かった。騒音職場における耳栓等の着用は、全体で80%と上記2種に比べて低く、特に30人未満の事業所では67%と低かった。

 過去3年間に脳卒中や心臓発作で倒れた人は全体で17人(2.3%)であり、30人以上の事業所の方が2%程高かった。

 石川産業保健推進センターの活動は、全体で33%が知っていると答え、30人以上の事業所の方が41%と高かった。石川産業保健推進センターの利用については全体で6%であった。

 地域産業保健センターについて、健康相談窓口の設置を知っていたのは、全体で27%であり、30人以上の事業所の方が30%と高かった。地域産業保健センターのこれまでの利用については、全体で5%であった。地域産業保健センターの今後の利用については、全体で42%が希望した。

 小規模事業場産業保健活動支援促進助成金制度については、全体で14%が知っており、30人以上の事業所の方が18%と高かった。この制度の今後の利用についての関心は、全体で46%であり、事業所規模による差はみられなかった。

 メンタルヘルスの取り組みの必要性については、全体で「極めて必要」との回答は3%であったが、「必要」との回答は53%を占めた。30人以上の事業所では、「極めて必要」も含めて「必要」との回答は62%と高かった。

 過去3年間にメンタルヘルス面での相談事例・問題事例があったと回答した事業所は全体で25カ所(3.3%)であり、事業所規模による差はみられなかった。

 その内、過去3年間に2件以上あった事業所は全体で6カ所(相談事例・問題事例があった回答した全事業所の24%)であった。

 産業保健に関する情報入手方法については、全体では広報(県・市町村)が26%と最も高く、続いて新聞20%、業界関係誌17%の順であった。

 今後の産業保健活動として希望する事項については、「産業保健情報の適宜入手」は全体で73%であり、事業所規模による差はみられなかった。

 「一般健康診断後の保健指導・健康相談」については、全体で85%であり、事業所規模による差は、みられなかった。

「作業場の粉塵濃度や騒音の測定」については、全体で17%であり、30人以上の事業所の方が19%とわずかに高かった。

 「健康診断や作業環境測定の費用の援助」については、全体で73%であり、30人未満の事業所の方が75%とわずかに高かった。

 「従業員への産業保健に関する教育の実施」については、全体で42%であり、事業所規模による差はみられなかた。

 「長時間労働に対する過労対策の必要性」については、全体で15%であり、30人以上の事業所の方が20%とやや高かった。

 「経営の安全化が当面の課題」については、全体で73%であり、30人未満の事業所の方が74%とやや高かった。

III.労働基準監督署別の比較

 各監督署別に業種を比較すると、製造業は加賀の44%を筆頭に七尾、小松で第1位を占めた。穴水は建設業が63%と際だって高値であった。金沢はサービス業が25%と第1位を占めたが、建設業、製造業、卸売・小売・飲食店業と続き、いずれも20%を越えた。

 従業員の男女別比率は、全体では男性66%、女性34%であるが、男性の比率が最も高かったのは穴水の70%であり、逆に最も比率が低かったのは加賀の61%であった。

 パートの比率は小松の42%が最も高く、次に七尾、金沢、加賀と続いて、穴水の1.1%が最も低かった。

 従業員の年齢割合を比較すると、40才未満の労働者は金沢の50%を最高に小松、七尾の順に多かった。一方、50才以上の労働者は穴水の44%を最高に、加賀、七尾の順に多かった。

 一般健康診断の実施率は、穴水が100%で、続いて小松、七尾、金沢の順で加賀が90%と最も低かった。

 従業員の半数以上が一般健診を受診している事業所は、穴水の97%が最高で、続いて七尾、金沢、小松の順で加賀が82%と最も低かった。

 有害業務・特定業務は全体の61%を金沢が占めているため、金沢の傾向が全体に反映し、深夜業の30%が最高で、続いて重量物取扱い、有機溶剤、粉塵の順である。地域の特徴としては、穴水では重量物取扱いが43%で第1位であり、加賀では深夜業が50%で、小松では有機溶剤が27%でそれぞれ第1位であった。

 4項目に限定して特殊健康診断の実施割合を見ると、粉塵については金沢が全体の68%を占めており、金沢での実施率73%が全体の実施率76%に反映していた。

 有機溶剤は金沢、小松で全体の88%を占めており、実施率は金沢87%、小松100%で全体では90%であった。

 鉛と特定化学物質については回答事業所が5事業所と少ないため、地域ごとの特色についてはコメントを控える。

 保護具の使用状況は、粉塵職場における防じんマスクについては、全回答事業所の66%が金沢であり、金沢のマスク着用率は94%であったが、その他は100%着用されており、全体では96%の着用率であった。

 有機溶剤職場における防毒マスクについては、金沢、小松合わせて全回答事業所の90%を占めており、金沢マスク着用率は77%と低かったものの、その他は100%着用されており、全体では85%の着用率であった。

 騒音職場における耳栓等の着用は、全回答事業所の57%を占める金沢での着用率が71%と低めであったため、全体では80%であった。

 過去3年間に脳卒中や心臓発作で倒れた人は、実数では17人中10人が金沢でおきて、発生のあった事業所の率は2,1%であった。穴水での実数は3人だが、事業所毎の発生率は10%と最高であった。

 石川産業保健推進センターの活動の認知度は、加賀の57%が最高で、続いて小松、七尾の順であった。

 石川産業保健推進センターの利用については、穴水の10%が最高で、続いて小松、金沢の順であった。

 地域産業保健センターにおける健康相談窓口の設置を知っていたのは、加賀の44%が最高で、続いて七尾、小松の順であった。

 事業所を個別訪問して産業保健指導することについて知っていたのは、加賀の49%が最高で、続いて穴水、小松の順であった。

 地域産業保健センターのこれまでの利用については、穴水と加賀が13%と全体の5%と比べて高かった。

 地域産業保健センターの今後の利用についての希望は、加賀の58%が最も高く、続いて穴水、小松の順であった。

 小規模事業場専業保健活動支援促進助成金制度について知っていたのは、加賀の24%が最高で、続いて穴水、七尾の順であった。

 この制度を今後利用することについての関心は、加賀の59%が最高で、続いて穴水、七尾の順であった。

 メンタルヘルスへの取り組みの必要性については、「極めて必要」と「必要」との回答を合わせると、穴水の58%が最高で、4地域で半数を越えた。

 過去3年間にメンタルヘルス面での相談事例・問題事例があったと回答した事業所は、穴水の6.5%、七尾の5.7%が相対的に高値を示した。

 過去3年間に2件以上あった事業所は全体で6カ所にすぎず、地域比較をするには件数が少なかった。

 産業保健に関する情報入手方法について、全体と比べて地域の特色がみられるのは、加賀や小松では広報の比率34.5%と高く、穴水では業界関係誌が39%と高率であった。

 今後の産業保健活動として希望する事項のうち、「産業保健情報の適宜入手」に関しては、すべての地域で70%を越え、その中で加賀の81%が最高であった。

 「一般健康診断後の保健指導・健康相談」については、加賀の97%が最高で続いて七尾が91%と高かった。

 「作業場の粉塵濃度や騒音の測定」については、加賀の30%が最高で、続いて七尾の21%であった。

 「健康診断や作業環境測定の費用の援助」については、すべての地域で70%を越え、その中では穴水の79%が最高であった。

 「従業員への産業保健に関する教育の実施」については、加賀の54%が最高で、その他の地域は40%前後であった。

 「長時間労働に対する過労対策の必要性」については、加賀の28%が最高で、他の地域では7~16%だった。

 「経営の安全化が当面の課題」については、全体では73%であり、地域別では小松の75%が最高で金沢、七尾でも70%を越えた。

IV.業種別の比較

 業種別に事業所の労働基準監督署別内訳をみると、いずれの業種とも過半数を金沢が占めた。個別にみると、製造業では小松、七尾がそれぞれ2割近く、加賀が1割を占めた。

 建設業では金沢、七尾に続いて穴水の11%が他の業種での比率と比べて際だって高かった。卸売・小売・飲食店は金沢が82%に達し、小松が10%で七尾は5%を他の業種での比率と比べて低率であった。サービス業、運輸業、その他の業種については概ね全体の監督署管内の比率と同様の傾向を示した。

 従業員の男女別比率は、前述の如く、全体では男性66%、女性34%であるが、男性の比率は運輸業90%、建設業83%と高く、逆に最も比率が低かったのはサービス業の51%であった。

 パートの比率は全体での10%に対し、卸売・小売・飲食店での20%が最も高く、サービス業14%、その他13%と続き、逆に建設業2.5%、運輸業4.0%が低率であった。

 従業員の年齢割合を比較すると、40才未満の労働者は卸売・小売・飲食店の57%を最高にサービス業49%と多かった。一方50才以上の労働者は運輸業の42%を最高に、建設業、製造業の順に多かった。

 一般健康診断の実施率は、建設業が98%で最も高く、続いて運輸業、その他、製造業の順で、逆に卸売・小売・飲食店が88%と、サービス業が89%と低率であった。

 従業員の半数以上が一般健診を受診している事業所は、建設業の99%が最高で、続いて製造業、運輸業の順で卸売・小売・飲食店が77%、サービス業が84%と低かった。

 有害業務・特定業務全体の41%を製造業が占め、特に有機溶剤と粉塵では全体の2/3、騒音作業は64%を占めた。深夜業はサービス業の70%、運輸業の56%にみられた。重量物取扱いは卸売・小売・飲食店で47%と最高で、また、その他、建設業、運輸業で40%を上回った。有機溶剤は製造業に続いて卸売・小売・飲食店21%、サービス業18%の順であった。粉塵は製造業に続いて建設業15%、卸売・小売り・飲食店11%の順であった。騒音は製造業以外でも、その他と製造業で10%を越えた。特定科学物質は製造業とその他に、また鉛は製造業と卸売・小売・飲食店に限定されていた。

 4項目に限定して特殊健康診断の実施割合を見ると、鉛と特定化学物質については回答事業所が5事業所と少なく前問の回答と整合性を一部欠くため、業種ごとの特色についてはコメントを控える。

 粉塵については、主要な業種では、製造業が92%の実施率に対して、建設業では実施率が33%と低かった。

 有機溶剤は、主要な業種では、製造業と卸売・小売・飲食店が実施率100%であったのに対して、サービス業50%、建設業67%と低率であった。

 保護具の使用状況は、粉塵職場における防じんマスクの着用率は、全体では前掲の如く96%であり、業種別にみると製造業、卸売・小売・飲食店、その他で100%着用されており、建設業も92%(11/12事業所)とほぼ着用されていた。

 有機溶剤職場における防毒マスクについては、製造業と建設業が80%を越えていたが、サービス業と卸売・小売・飲食店はそれぞれ71%、75%と低めであった。

 騒音職場における耳栓等の着用は、製造業で90%の着用率であったが、建設業では33%と低く、全体では80%であった。

 過去3年間に脳卒中や心臓発作で倒れた17人中9人が建設業でおきており、その発生率も5.2%と最高であった。運輸業での実数は2人だが、発生率では4.3%と第2位であった。

 石川産業保健推進センターの活動の認知度は、製造業の42%が最高で、続いてサービス業、運輸業の順で卸売・小売・飲食店の20%が最も低かった。

 石川産業保健推進センターの利用については、製造業の9%が最高で、続いてその他、建設業の順で、逆に卸売・小売・飲食店1.9%、運輸業2.4%と低率であった。

 地域産業保健センターにおける健康相談窓口の設置を知っていたのは、製造業と運輸業で30%を越えていた。一方、卸売・小売・飲食店は16%と低めであった。

 事業所を個別訪問して産業保健指導することについて知っていたのは、製造業33%、運輸業29%の順で、卸売・小売・飲食店1.8%、運輸業2.1%、サービス業2.4%と低めであった。

 小規模事業場産業保健活動支援促進助成金制度について知っていたのは、製造業の20%が最高で、続いて建設業、運輸業、サービス業の順で、卸売・小売・飲食店が3.6%と低めであった。

 この制度を今後利用することについての関心は、運輸業の57%が最高で、続いて建設業、製造業の順で、サービス業、卸売・小売・飲食店、その他では40%以下と低めであった。

 メンタルヘルスへの取り組みの必要性については、「極めて必要」と「必要」との回答を合わせると、運輸業の61%が最高で、最も低い製造業でも48%が必要と回答した。

 過去3年間にメンタルヘルス面での相談事例・問題事例があったと回答した事業所のうち、建設業が9件/25件、5.1%が最も高かった。

 過去3年間に2件以上あった事業所は全体で6カ所だけであったが、その半数は建設業だった。

 産業保健に関する情報入手方法について、県・市町村の広報が第1位と回答した業種は運輸業、製造業、その他、サービス業であり、卸売・小売・飲食店では新聞、建設業では業界関係誌との回答が最も多かった。

 今後の産業保健活動として希望する事項のうち、「産業保健情報の適宜入手」に関しては、運輸業の79%が最高で、その他、製造業と続き、卸売・小売・飲食店が68%と最も低かった。

 「一般健康診断後の健康指導・健康相談」については、運輸業の94%が最高で、続いてその他、卸売・小売・飲食店、建設業の順であった。

 「作業場の粉塵濃度や騒音の測定」については、製造業の36%が最高で、続いて建設業の20%であった。

 「健康診断や作業環境測定の費用の援助」については、全体では73%であり、運輸業が93%と最も高く、反対にサービス業は60%と最も低い。他の業種はいずれも70%台であった。

 「従業員への産業保健に関する教育の実施」については、運輸業の56%が最高で、続いて建設業、製造業の順で、最低は卸売・小売・飲食店の28%であった。

 「長時間労働に対する過労対策の必要性」については、運輸業の27%が最高で、製造業、建設業と続き、その他が2.4%と最も低かった。

 「経営の安全化が当面の課題」については、運輸業の86%が最も高く、続いて卸売・小売・飲食店が81%であった。一方、その他63%、サービス業65%が低率であった。

考察

 はじめに、本調査研究は従業員50人未満の小規模事業所を対象に産業保険活動の実態を明らかにし、その支援の方策を検討することを目的に実施された。昨年度の石川産業保健推進センターの産業保健活動調査研究は50人以上の事業所を対象にして、「石川県における定期健康診断の有所見率が高い要因について」実施された。職場における健康管理活動の実態を把握するための質問紙票による調査では、回収率が36%であった。本調査を実施するに当たり、回収率が昨年度を下回ることが危惧された。しかし、実際の回収率は42%と昨年度を上回った。この結果は、依然として満足できる値ではないが、産業保健活動が相対的に遅れていると考えられる小規模事業所を対象とした調査で前回を上回る回収率が得られたことは評価すべきであろう。その要因としては、昨年度の調査活動やその結果報告・宣伝活動を通じて、当センターの認知度が高まってきたことを反映していると考えて良いのではないか。また、今回、質問紙調査を実施するにあたって、石川労働基準局(現石川労働局)と連名で本調査への協力要請をしたことや、質問票を書きやすくするよう項目数を限定したこと、用紙を色紙にして識別しやすくしたことも効果を上げたと思われる。なお、本調査を集計して、関連質問の結果に一部整合性を欠く点がみられた。例えば、一般健康診断の実施率より、従業員の半数以上が受診した事業所率の方がわずかだが高くなっている業種(建設業:98.3%と98.9%)がみられた。これは、記載者の理解度にも影響されているとも思われるが、小規模事業所を対象にした調査であり、今回は記載者を健康管理担当者に指定しなかった。その他にも理由があるかもしれないが、この程度の過誤を含んでいることをあらかじめ認識した上で、なお、概況について十分考察できると判断してまとめた。

 事業所規模については従業員数30人を基準に2群に分けて比較検討を試みた。もとより、50人未満の事業所を対象にしたこと、さらに15人未満の事業所については、対象事業所が多すぎて把握しきれなかったために調査結果より除外したことより、対象事業所は従業員数15人以上50人未満と限定されて、事業所規模による産業保健活動には総じて大差は見られなかった。その中で、一般健康診断の実施率は30人以上の事業所で96%と高めであった。この値は、昨年度の従業員数50人以上の全事業所を対象とした調査での実施率97%と比較して、遜色のない結果であった。(*1)

 また、平成9年に実施された労働者健康状況調査報告によると、30~49人の事業所では一般定期健診受診率は92.8%であり、本調査の同規模事業所での実施率はこれを上回った。(*2)

 有害業務や特定業務の比率は重量物取扱い作業を除いて、30人以上の事業所の方が高かった。但し、有害業務に該当すると回答した事業所は深夜業の11%が最高で全般に低く、予想と異なった。特に、騒音作業や重量物取扱い作業においては、事業所側の認識と我々の認識に差があるのではないかと思われ、今後より詳細な調査が必要と思われた。

 産業保健推進センター並びに地域産業保健センターや小規模事業場産業保健活動支援助成金制度の利用希望については、事業所規模に係らず、40数%の事業所が希望しており、小規模事業所においても産業保健へのニーズのあることが認識され、今後の積極的な活動が期待されている。活動の中核を担う地域産業保健センターの利用率を高める方策としては、業種組合や商工会議所の総会等に、産業保健コーナーを設置したり、産業保健に関する講演会を組み入れてもらう等の先進的な活動が報告されている。事業所訪問相談活動のように、産業現場や地域に出向いて、活動を展開することが強く求められている。
 産業保健活動全般への希望では、保健指導・健康相談が85%と最も高く、産業保健情報の適宜入手と健康診断・作業環境測定の費用の援助が各73%で続いた。また、メンタルヘルスへの取り組みは過半数の事業所がその必要性を認めている。一方、過労死対策(15%)作業環境測定の実施(17%)は低調であった。

 地域別に見ると、加賀監督署管内は一般健康診断の実施率は低いものの、産業保健センターの認知度や今後の産業保健活動への希望は最も高く、今後の産業保健活動が発展する可能性がある地域といえよう。また、穴水監督署管内は、建設業が3社有り、全体の10%を占めていることに代表されるように、重量物取扱い作業の比率も高い。一方、パート労働者は最も少なく高齢化も顕著であり、突然死が最も多く見られた。業種では建設業に突然死が最も多く、また、粉塵対策での保護マスクの着用が低い業種であり、個別の労働衛生指導が必要と思われる。

 金沢管内は、40才未満の労働者の比率が約50%と最も高く、卸売・小売・飲食店の82%、サービス業の69%を占め、一般健康診断受診率も全体の平均より低い。有害業務の傾向の違いもあり、断定は避けたいが、産業保健活動への関心も低い傾向が伺われる。その中では、健康指導・健康相談については、他の業種と同様の要望がみられ、今後の産業保健活動の窓口になれるのではないだろうか。

 総じて、産業保健活動の情報提供は十分と言い難く、実践活動とともに独自の宣伝活動を継続することが求められる。

まとめ

 石川県下の従業員数15人以上50人未満の全事業所を対象に質問紙票による産業保健活動の実態調査を郵送法にて実施した。回収率は42%で、一般定期健康診断の実施率は94%と石川県下の従業員数50~99人の事業所と比べても遜色なく、全国の同規模事業所における実施率を上回った。産業保健センター利用率は5~6%と低い一方、今後の利用希望は40%以上あり、センターがより利用しやすい活動の工夫と継続的な情報提供の発信が求められる。その際に、地域や業種の特徴を理解した、具体的な産業保健支援活動の実施が望まれる。

参考文献

*1)平成10年度産業保健調査研究報告書 「石川県における定期健康診断成績の有所見率が高い要因について」 石川産業保健センター 1999

*2)平成9年度労働者健康状況報告 「企業における健康対策の実態」 労働大臣官房政策調査部 1998
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