独立行政法人 労働者健康安全機構 石川産業保健総合支援センター ishikawa

石川県の事業所における
メンタルヘルス対策の
取り組みの状況の実態と
事業場外資源の
ネットワーク形成のあり方
に関する研究

主任研究者 石川産業保健推進センター相談員 小山 善子
共同研究者 石川産業保健推進センター相談員 鳥居 方策
石川産業保健推進センター所長 佐藤  保
金沢大学医学部保健学科講師 河村 一海
金沢大学医学部保健学科助手 安田 恭子

はじめに

 社会経済の厳しさが続く中、仕事や職場生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合は年々増加しており、また、労働者の自殺者も目立っている。このような状況に対処するために、厚生労働省は平成12年8月に「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」を発表した。厚生労働省はこの指針に沿って事業場でのメンタルヘルス活動が行われるよう支援施策を進めているところである。
 そこで、石川県下の事業所がメンタルヘルス対策にどの程度取り組んでいるのか現況を把握し、更にメンタルヘルス対策を推し進めていく際に、どんな支援体制が必要かを調査研究したので報告する。

対象および方法

 石川県下の主として50人以上の従業員を雇用する事業所1,186ヵ所(平成14年9月現在)に調査票を郵送し、無記名による郵送回答とした。回答事業所は649ヵ所(回収率54.7%)であった。
 調査回答者は産業医もしくは健康管理の直接担当者である。
 調査項目:1)事業所の内訳(業種、従業員数、従業員の平均年齢、衛生管理者の選任有無、産業医の有無、産業精神保健に係わる職種の配置、ストレスや心の不調で悩む人の有無、メンタルヘルスケアの相談の対応者) 2)メンタルヘルス対策の状況(指針の衆知度、心の健康づくり計画の実態、職場環境等の改善対策の実施状況、メンタルヘルスに関する教育・研修の実施状況、労働者の心の健康づくりの実施状況、相談体制の状況、メンタルヘルス対策を推進するための支援)

結果

(1) 衛生管理者の選任は86.7%、産業医は92.0%(専属13.4%、嘱託69.0%)と前回(平成11年)調査と比し、若干増えていた。看護師又は保健師は電気・ガス・水道業や、医療・福祉関係及び教育研究関係業種では8割以上の高率に配置されているが、全体では26.5%であった。産業カウンセラーは6.0%、労働衛生コンサルタントは4.2%、精神科は3.5%に配置されていた。

(2) ストレスや心の不調で悩む人がいるとの回答は77.1%の事業所にみられ、そのうち事業所に5%未満は34.8%、5-9%は21.0%、10-19%は13.3%、20%以上は8.0%にみられた。事業所に10%以上が居るとの業種は出版・印刷業、金融・保険業、医療福祉業の3~4割にみられた。メンタルヘルス相談の対応者は職場の管理者又はリーダーが多く(45.9%)、次いで人事・労務担当者(33.1%)、産業医は24.2%であった。対応者がいないは10%であった。

(3) 「心の健康づくりのための指針」を「知っている」は47.9%、「知らない」は47.9%と半々であるが、従業員数が多い企業は衆知度は高く1,000人以上の事業場は80%が知っていた。

(4) 「心の健康づくりに取り組むことを表明」や、「短期目標」や「中長期目標」を立てている事業所は各22.3%、13.6%、8.6%と少なかった。また、メンタルヘルスのための事業所内・外の組織作りがなされている所は24.7%であった。産業保健に携わる関係者間の連携がうまくいっている所は41.6%で43.6%は連携がとれていなかった。事業場外資源の連携は56.1%がうまくいってないと回答していた。

(5) 職場のストレスとして全体では人間関係と挙げる事業所が一番多く(48.7%)、電気・ガス・水道業では66.7%にみられたが、通信業、卸売業、金融・保険業では仕事の質的負荷を、製造業、建設業、金融・保険業では仕事の量的負荷を、通信業では給与体制でのストレスを挙げていた。しかし、これら職場環境等のストレス要因の評価を何等かの評価法を用いて評価している所は9.2%にしかみられなかった。また、労働者への心の健康アンケートを実施している事業所は16.3%であった。

(6) 労働者、管理者、産業保健スタッフへの教育・研修の実施状況は各18.6%、23.9%、14.0%であった。研修の効果ありは13.7%で、49%は効果が分からないとの回答であった。

(7) ストレス対処や心の健康のための保健指導を実施している事業所は20.5%で、睡眠休養、食生活、運動指導が多かった。自律訓練法やリラクゼーション法を研修させている事業所は3.5%、4.9%であった。

(8) メンタルヘルスの相談体制では相談窓口を設置している事業所は34.7%、大事業所ほど窓口が設置されていて1,000人以上は90%が設置していた。また、業種では通信業、電気・ガス・水道業が回答事業所全てで窓口を置いていると回答していた。相談利用者は年に数人が21.7%、月に数人4.9%、週に数人1.5%、日に1~数人0.5%であった。相談への対応者の教育・研修を行っている事業所は5.7%で、70%以上は研修はされていなかった。
 最近1年間の相談事例数は1~5件が31.3%、6~10件3.1%、11~20件0.9%、>21件は0.9%で36.2%の事業所で相談事例がみられていて、47.6%は相談事例は無いとの回答であった。受診に結びつける困難さ、本人だけでなく家人への対応の難しさ、プライバシーの問題など対応に苦慮しているようであった。
 現在、精神疾患の診断での休職者は回答事業所の0.9%、78人であった。うつ病が多かった。
 休職者に対する復職は主治医の診断書に従うが37.6%、本人・家族からの申し出27.6%、産業医判断は14.0%で、復職判定会を設置している事業所は9.2%であった。復職者へ何等かの支援体制が作られている所は29.1%であるが、1,000人以上、500~999人の大事業所では5~6割が支援体制を作っていた。

(9) 事業場外の専門機関との連携がとれているは32.5%、連携がとれないとの回答は40.5%であった。連携がとれない要因としては、「事業所内自身の体制がとれていない」、「経営者の認識が低い」、「事業場外にどんな専門機関があるのか知らない」、「利用の仕方が分からない」…等

(10) メンタルヘルス対策を推進するために事業所が望む支援としては、メンタルヘルスに関するパンフレット23.4%、スタッフの養成22.7%、管理監督者・スタッフの相談機関19.1%、教育・研修の講師派遣18.6%、労働者の相談機関17.9%などが多かった。専門家として産業カウンセラーの支援を求める事業所は5.9%にみられている。

 以上、各事業所におけるメンタルヘルス対策の取り組みの現況は緒についたばかりでまだまだ低調である。しかし、メンタルヘルスの重要性や深刻に対策を講じなければと感じている事業所も少なくないが、「どう取り組めばいいのか分からない」との回答や、「現実問題としては中小企業にとっては会社存続が第一でメンタルヘルスに取り組む以前の段階」といった現実の厳しい世情を反映する意見、メンタルヘルスへの認識不足の事業所もみられる一方、今回の調査の実施自体が事業所にメンタルヘルス対策への取り組みへの動機づけとなり、事業所として一体になり早急に取り組む重要課題と挙げる事業所も見受けられた。職場でのメンタルヘルス対策が前進するように、今回の結果を踏まえて産業保健推進センターが果たす役割は大きい。
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