独立行政法人 労働者健康安全機構 石川産業保健総合支援センター ishikawa

石川県における
定期健康診断の
有所見率が高い
要因について

調査研究統括 石川産業保健推進センター所長 河野 俊一
調査研究の分析他 石川産業保健推進センター相談員 城戸 照彦
石川産業保健推進センター相談員 鈴木  博
金沢医科大学公衆衛生学教授 中川 秀昭
金沢医科大学公衆衛生学講師 森河 裕子
研究協力者 金沢医科大学公衆衛生学講師 三浦 克之
社会保険鳴和総合病院健診部長 堀口  優
(財)石川県予防医学協会健康増進部長  廣川  渉

緒 言

 石川県における一般定期健康診断の有所見率は、平成6年41.0%、7年46.5%、8年51.6%と 年々増加する傾向にあり、平成8年度の全国平均38.0%を大きく上回っている。平成9年度においては、48.8%と前年をやや下回ったものの依然として全国平均39.5%より大幅に高い有所見率を示している。1)今日、職域においては高血圧や糖尿病等の生活習慣病への関心は高く、多くの事業所で産業医をはじめとした産業医療スタッフが日々その対策に努力を払っている。このような状況下で、高い有所見率をこのまま放置することは許されない。この原因を明らかにし、 必要な対策を講じることが、県内の関連機関からも強く要望されている。上述のごとき産業保健の課題を解決すべく、本調査研究では、はじめに石川県内の健康管理活動の全般的な状況を各種健診の実施率やマンパワーの面から分析する。次に、今日特に関心の高いがん検診の実施状況を明らかにし、これらの健康管理活動が全国水準と比較した際の評価を加える。さらに、県下の主要な健診機関の協力を得て、有所見率に影響を与える要因について検討を加える。よって、本研究は以下の3つの項目より構成されている。

石川県下の職域における健康管理活動調査結果

まとめ
 石川県下の定期健診の有所見率が高い要因について解析する前提として、健康管理活動の全般的な状況を明らかにする目的で、従業員数50人以上の全事業所、1,237事業所に質問紙票を送付した。回収率は36.4%であった。同じ規模の事業所について全国調査結果と比較すると、石川県下の定期健診実施率は全国水準に近い結果を示していると考えられる。人間ドックの実施率や健康診断の担当者の比率では全国水準を下回っていることが明らかになった。以上の結果より、今後、有所見者への事後指導を強化していく必要性のあることが示唆された。

石川県下の職域におけるがん検診調査結果

まとめ
 職域でのがん検診実施状況の現状を検討し、石川県内の事業所におけるがん検診の普及に関していくつかの提言を行った。本調査からも、石川県における定期健診の有所見率を低減化するためには、がん検診を含むより質の高い健康管理活動を今後展開していく必要性のあることが示唆された。

石川県下の主な健診機関における定期検診成績の解析

 今回は石川県下の代表的な二つの健診機関に協力を依頼し、便宜的に老人保健法による基本健診で用いられている判定区分に基づいて有所見率を検討した。循環器疾患などの予防のために生活習慣などの指導を要すると判定される判定区分Aを用いた有所見率は、労働基準監督署のとりまとめによる全国平均に比べて、脂質、肝機能、貧血、血圧のいずれも高い値を示した。一方、より強い指導あるいは医療が必要とされる判定区分Bを用いた場合は、全国平均より低い率となる。しかし、各企業がどのような判定区分に基づいて報告を行うかは今のところ自由であり、各県あるいは全国と石川県との単純な比較はできない。各項目とも、広範囲にわたっていることがわかる。今後は同一の判定基準に基づいて、他県あるいは全国との比較検討を行う必要があると考えられた。その他、有所見率に影響を及ぼす 要因としては、年齢構成、地区や企業規模があげられる。企業規模別あるいは地区別の検討では、企業 規模が小さいほど聴力や血圧、肝機能や貧血の有所見率が高く、逆に企業規模が大きいほど、BMIや 血清脂質の有所見率が高くなる傾向がみられた。地区によってもいくつかの項目で有所見率に差がみられた。
 ところで、今後判定区分を定めて有所見者数や率の届け出を進めていくとすれば、健診機関の精度が問題になる。今回は石川県下の代表的な二つの健診機関に協力を依頼したので、便宜的に老人保健法による基本健診で用いられている判定区分に基づいて有所見率を両機関で比較検討した。コレステロールについては若干の有所見率の差がみられたが、他項目については、ほぼ同程度の有所見率を得た。このことから、精度管理の行き届いた健診機関からのデータについては、判定区分を定めて有所見率の届け出を求めることが可能と考えられた。

結 語

 以上の調査研究結果より、石川県内における定期健診の有所見率の地域格差は、年齢階級別に検討すると、同年代においては各階級ともその差は顕著ではなく、労働者の年齢が有所見率に影響を与えられていることが示唆された。このことは定期健診の有所見率の全国比較においても、年齢を考慮に入れて評価すべきであることを示している。また、全国比較に際しては、検査項目の基準値を統一化することも検討されるべきであろう。同時に、定期健診の有所見率は健康管理活動全体の水準も関与していることが考えられたので、巨視的な視点に立った対策が必要とされよう。
報告書は労働福祉事業団石川産業保健推進センターにて閲覧できます。
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