独立行政法人 労働者健康安全機構 石川産業保健総合支援センター ishikawa

「石川県における就業者の
職業要因を考慮した
生活指導に関する研究」

研究代表者 石川産業保健推進センター所長 佐藤 保
共同研究者 石川産業保健推進センター相談員 中村 裕之
石川産業保健推進センター相談員 上田 操
金沢大学大学院医学系研究科教授 荻野 景規
金沢大学大学院医学系研究科講師 長瀬 博文
金沢大学医学部公衆衛生学助手 中島 円

目 的

 生活習慣病の予防には、よりよい生活習慣への行動変容が不可欠である。 しかし、就労者においては、多忙な勤務や交替制勤務等の生活習慣改善に障壁となる職業上の要因が存在することから、行動変容には 困難を伴うことが多い。そこで今回は、職業上の要因が生活習慣や保健行動に、どの程度影響を及ぼすのかを明らかにすることで、 労働環境を考慮した保健指導ができると考え、今回の質問票調査を行った。

対象と方法

調査対象者: 石川県内の企業(製造業10社、建設業1社、運輸交通業2社、商業(卸・小売)3社、保健衛生3社、サービス業1社)計20社に勤務する労働者約2,500人を対象に質問票調査を行った。

調査方法: 記名式自記式にて行い、回収方法は、各企業の担当者に依頼し、協力していただける人に配布、回収をしてもらう形式をとった。

回収率: 8割以上の回収率で協力していただいた企業は12社にのぼり、最終的には、81.3%とほぼ満足できる回収率であった。

質問票内容: 産業、業務内容、通勤時間、労働時間、労働の質に関する質問等の労働状況に関する項目と、食事、飲酒、喫煙、運動、睡眠などの生活習慣や保健行動等に関して質問した。

統計学的解析: 回答選択肢には得点を与えて数値化し、質問項目間の相関を、Pearsonの相関係数にて検討した。仕事の内容に関する質問項目群は、主成分分析(固有値1を基準として因子抽出を行い、 バリマックス回転後の因子負荷量を算出)を行い、4因子を抽出した。生活習慣や保健行動等を従属変数とし、労働状況に関する項目を独立変数とした線形重回帰分析を行い、 stepwise法による変数選択により、有意に寄与する要因を抽出した。統計パッケージは、SPSS Ver. 10.0Jを用いた。

結果

 産業別にみると、男女とも「保健衛生」に従事することは食事、喫煙に好ましい方向で寄与していたが、女性では、自覚ストレスを上げる方向に作用していた。また、「サービス業」は食事に、「商業」はアルコール摂取、喫煙に対し好ましくない方向で寄与していた。
 業務内容別にみると、男性の「経営管理」がアルコール摂取頻度を上げ、「営業販売」が多くの項目で好ましくない方向に作用していた。女性では、「研究、開発、技術」の食事、喫煙に対する好ましい影響以外有意な項目を認めなかった。
 「労働時間」は、女性で食事、喫煙、男性で自覚ストレス、男女ともで平均睡眠時間に対して好ましくない方向に影響を及ぼしていた。「交替勤務」は、男性の運動頻度、女性の平均睡眠時間に減少の方向の作用を示していたが、女性でアルコール摂取頻度を少なくする影響が認められた。また、長い通勤時間は男性の平均睡眠時間を短くしており、「職場の禁煙対策なし」は、男性が喫煙する方向に働きかけていた。仕事の質に関する4因子は、それぞれの項目に影響を与えており、特に「多忙感の因子」と自覚ストレスを多くすることの関連が男女ともに認められ注目された。

まとめ

 生活習慣や保健行動には、産業、業務内容、仕事の質、労働時間、交替勤務、職場の禁煙対策等の労働関連要因が大きく影響しており、就労者のよりよい生活習慣の確立にはこれらの要因は無視できないと考えられた。これらの要因を考慮した、「労働環境作り」、「保健指導」によって、就労者のよりよい生活習慣や保健行動への行動変容が期待できると考えられる。
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