独立行政法人 労働者健康安全機構 石川産業保健総合支援センター ishikawa

産業保健Q&A

産業医学

Q5
事業場における過重労働・メンタルヘルス対策を義務付ける労働安全衛生法の一部改正が昨秋の特別国会で成立しましたが、その概要と今後事業主や産業医が心がけるべき点について教えてください。
A5

 過重労働による健康障害防止のために、これまでも種々の対策が講じられてきました。特に、平成14年には、「過重労働による健康障害防止のための総合対策」が策定されました。時間外労働が月80時間を超えると、疲労の回復に重要な役割を果たしている睡眠時間が6時間以下に削減されるという生活調査の結果があります。さらに、多くの疫学調査から、その状況下より脳・心疾患の発症リスクが増加することが示されています(図1)。したがって、長時間の過重業務を軽減するすることが必要です。また、労働時間以外にも多くの負荷要因が存在します(表1)。そこで、すべての労働者に対して、健康障害防止を徹底するために今回の法改正がなされました。その骨格は、「過重な時間外労働を行った労働者の申請により、事業主は労働者の健康状態を産業医等による面接により適切に評価してもらい、その意見に基づき必要な事後措置を実施する」ことになります。産業医等が行う面接指導方法については、すでに(財)産業医学振興財団:過重労働対策等のための面接指導マニュアル・テキスト等作成委員会より、「長時間労働による健康障害防止のための医師のチェックリストとその使い方」というマニュアル(案)が出されており、研修会も開催されています。その内容を周知するため、上記財団のホームページ(http://www.zsisz.or.jp/)からも情報が提供されることになっております。面接は産業医が実施することが望ましいわけですが、産業医が選定されていない中小の企業では、かかりつけの医等の医師であればよいことになっています。事業主は、面接対象者の労働時間等の就業状況に関する情報を事前に提供しなければなりません。政省令によりその内容が最終確定されて、平成18年4月より実施される予定です。

(金沢大学大学院 医学系研究科教授 城戸照彦)

図1:働く人々の生活時間配分、とくに残業時間と過労死の関係(週5日労働)
図1:働く人々の生活時間配分、とくに残業時間と過労死の関係
(週5日労働)
就労態様 負荷の程度を
評価する視点
不規則な
勤務
予定された業務スケジュールの変更の頻度・程度、事前の通知状況、予測の度合、業務内容の変更の程度等
拘束時間の
長い勤務
拘束時間数、実務労働時間数、労働密度(実作業時間と手待時間との割合等)、業務内容、休憩・仮眠時間数、休憩・仮眠施設の状況(広さ、空調、騒音等)等
出張の
多い勤務
出張中の業務内容、出張(特に時差のある海外出張)頻度、交通手段、移動時間及び移動時間中の状況、宿泊の有無、宿泊施設の状況、出張中における睡眠を含む休憩・休息の状況、出張による疲労の回復状況等
交替制勤務・
深夜勤務
勤務シフトの変更の度合、勤務と次の勤務までの時間、交替制勤務における深夜時間帯の頻度等



温度環境 寒冷の程度、防寒衣類の着用の状況、一連続作業時間中の採暖の状況、暑熱と寒冷との交互のばく露の状況、激しい温度差がある場所への出入りの頻度等
騒音 おおむね80dBを超える騒音の程度、そのばく露時間・期間、防音保護具の着用の状況等
時差 5時間を超える時差の程度、時差を伴う移動の頻度等
精神的緊張を
伴う業務
【日常的に精神的緊張を伴う業務】
業務量、就労時間、経験、適応能力、社会の支援等
【発症に近接した時期における精神的緊張を伴う業務に関する出来事】
出来事(事故、事件等)の大きさ、損害の程度等

表1:労働時間以外の負荷要因

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